緑の悪霊 第9話


なんだ?
一体何がどうなってこうなっているんだ!?
ルルーシュの頭の中は絶賛パニック中だった。
あくまでも悪霊が残した髪の毛だと言い張るスザクに負け、お祓いが出来るならやってもらおう。それで気も晴れるだろうと承諾したまではいい。
その後、気が付いたら俺はベッドに横になっていて、その上にスザクが覆いかぶさってきていた。なんだ?何が起きた?この状況は何なんだ!?
慌てて起き上がろうとするが、スザクにあっさりと抑えこまれてしまう。
この馬鹿力が!と、心のなかで悪態をついた。
スザクの表情は一見穏やかだが、その目には飢えた獣の光が宿っており、先ほどとは違う意味で別人のように見えた。

「スザク?」

恐る恐る声をかけるとスザクはニッコリと笑った。
だが、その笑顔はいつもの明るい笑顔ではなく、その瞳も笑っていなかった。
スザク、俺は悪霊よりお前が怖い。

「大丈夫。悪霊は僕が祓ってあげる。ルルーシュは何もしなくていいからね?」

穏やかな口調で言われたのだが、この体制でどうやってお祓いなどするのだろうか。
神社のお祓いとはまるで違う。違いすぎる。
俺は自分の脳内にあるお祓いに関する記述を引っ張りだして、この短時間で脳をフル回転させ徹底的に検証したのだが、該当するものは何一つ見つけられなかった。
すると、最近俺との距離感がおかしいスザクが、どんどん顔を近づけてきた。
予想のつかない状況に、思わず体を硬直させた時。

「ルールーちゃーん」

コンコンと言うノックと共に、聞きなれた人物に名を呼ばれた。

「会長!?」

俺は反射的に扉へ視界を移動させ、声を上げた。
上から見下ろしていたスザクは、むすっと口元を歪めた後、顔だけ扉の方へ向けた。
あからさまに不愉快そうに扉を睨んでいる。

「ちょっといいかしら?相談したい事があるんだけど」

ルルーシュの声が聞こえたのだろう、ミレイは要件を口にした。
ミレイはクラブハウスの管理者のため、この部屋のカギを持っていて、パスも知っている。やらないとは思うが、この部屋へいつでも押しいる事が可能な人物なのだ。

「スザク、どけろ」

こんな状況を見られたら、どんな誤解を受けるか解らないだろう。

「・・・わかったよ」

渋々スザクは体を退けた。
舌打ちしたように聞こえたのは気のせいだろう。
だが、助かった。
この件が片付いたら、スザクにお祓いの手順を説明してもらう。
悪霊やKMFでの戦闘より怖いスザクなんて、心臓に悪すぎる。

「ルルちゃーん?」
「今開けますよ」

慌ててベッドから降りると、手早く髪や服の乱れを直し、扉を開けた。

「ごめんね、急に来て・・・あら、スザク君もいたの?」

にこにこ笑顔でミレイが言うと、スザクもにっこり笑顔で「遊びに来てたんです」と返しながら、乱れたベッドの端に腰かけた。
ああ、スザクがマットを持ち上げたり、押し倒されたりしたせいで、シーツやらなんやらが恥ずかしいぐらいぐちゃぐちゃに乱れている・・・直したい。
今すぐ直したい!
そんなルルーシュの心境など気にせず、ミレイは室内へ入りソファーに腰掛けた。その手には、いつくものファイルが抱えられていて、それらをテーブルの上に置いた。

「・・・またですか」
「えへっ。ごめんねルルちゃん。ちょーっとだけ、手伝って?」

放置していたらしき書類の中に、緊急の物か期限の近い物があったのを思い出して慌てて処理しようとしたのだが、やり方が解らずルルーシュを頼ってきたのだろう。
よくある話なので、ルルーシュは固定電話に手を伸ばし内線を掛けた。
咲世子に三人分のお茶を用意してもらうためである。

スザクのわけのわからない悪霊騒ぎから解放されほっと息を吐くルルーシュ。
完全にタイミングを逃し、表面上笑顔だが内心は真っ黒でドロドロになっているスザク。
全部お見通しでほくそ笑むミレイ。

一見すると穏やかに見える室内だが、異様な空気が漂っていた。

「仕事の前に、スザク、ベッドを整えさせてくれないか」

気になって仕方がないというので、スザクは「うん、わかったよ」と、腰を上げた。

「部屋の中、見ていい?」
「ああ。荒らすなよ?」
「解ってるよ」

書類を弄っている間は何もできないからと、スザクは再び部屋の中の探索を始めた。

***********

「あら、スザクさん帰らないようですね」

残念と言う様にナナリーは頬に手を当てて呟いた。

「ルルーシュの頭があれば、書類仕事などすぐに終わると思っているんだろう。第一、ルルーシュをモノにする前提なら、外泊許可も取ってきていると考えるべきじゃないか?」
「確かにそうです。では、次の手を打たないといけませんね」

困った駄犬です。
ナナリーはそう言いながらもどこか楽しげに思考を巡らせていた。

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